「ぞめき」を漢字で書くと「騒き」と書きます。意味は浮かれ騒ぐことです。
阿波おどりでは「ぞめきのリズムに合わせて踊る」というように、いわゆる阿波おどりのお囃子のことを「ぞめき」と呼びます。
ぞめき以外に阿波おどりで演奏される代表的なお囃子としては「吉野川」「阿波よしこの」「祖谷の粉ひき唄」「阿波の麦打ち唄」などがありますが、阿波おどりのお囃子を総称して「ぞめき」と呼んでおり、これには確かな定義がある訳でもありません。
それだけに、連によって様々な「ぞめき」が存在します。
鳴り物の中でも篠笛は、ぞめきの主旋律を奏でるという、大事な役割があります。
いくつかの連が合同で演舞する場合、それぞれの「ぞめき」を勝手に演奏してはバラバラになってしまいます。
太鼓などの打楽器は比較的合わせることが容易ですが、篠笛は旋律が違っては合わせることができません。
そのため、暗黙のうちに「協会仕様」とか「正調ぞめき」と呼ばれるものがあります。
一般的に正調ぞめきと呼ばれるものは、途中で一小節だけ5拍子になります。
なので、一節ごとに表になったり裏になったりして旋律が変化する訳です。
ぞめきはこの篠笛の「ゆれ」と、太鼓や三味線など他の楽器との兼ね合いが、実に味があって、情緒豊かでおもしろいのです。
しかしもっぱら近年では、笛や三味線が入ったぞめきを演奏せず、鉦と太鼓だけでドカドカと独自のリズムを奏でる連が増えました。
これは、打楽器だけの鳴り物だと安易にできるからです。
このような連は、激しく鉦と太鼓を打ち鳴らして大音量でけたたましく演奏するため、情緒などは全くありませんが、若者ウケしていることは事実です。
「吉野川」という曲は、ギタリストの寺内タケシが徳島の殿様連と共演したとき、即興で演奏したといわれている曲ですが、これがまた非常に情緒があって、とても素晴らしい名曲です。
最近では「吉野川」もかなり一般的になってきました。
連によって多少の違いがあるものの、よくぞめきと交互に演奏されています。
徳島や高円寺の協会では、共通に吹かれる吉野川もあります。
「阿波よしこの」の第一人者といえば、2008年に100歳で逝去されたお鯉さんこと、多田小餘綾(ただ こゆるぎ)さんです。
「よしこの」は、スローな踊りによく使われます。
この「よしこの」も連によって微妙に異なりますが、篠笛がピンで吹くケースが多いため、踊り手と吹き手の絶妙な「間」のバランスがたまりません。
「よしこの」の歌詞
ハァラ エライヤッチャ エライヤッチャ
ヨイ ヨイ ヨイ ヨイ
阿波の殿様 蜂須賀さまが
今に残せし 阿波おどり
ハァラ エライヤッチャ エライヤッチャ
ヨイ ヨイ ヨイ ヨイ
笹山通れば 笹ばかり
猪 豆喰て ホーイ ホイ ホイ
笛や太鼓の よしこのばやし
踊りつきせぬ 阿波の夜
ハァラ エライヤッチャ エライヤッチャ
ヨイ ヨイ ヨイ ヨイ
踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら
踊らにゃそん・そん
ハァラ エライヤッチャ エライヤッチャ ヨイ ヨイ ヨイ ヨイ
「祖谷の粉ひき唄」は最近、阿波おどりでよく演奏されるようになった徳島の民謡です。
三味線との合わせが実にマッチした素晴らしい曲です。
中国地方で農家の庭先に積み上げられた稲の穂を、何人かで唐竿やくるり棒で叩きながら唄われていたのが「麦うち唄」です。
この「麦うち唄」が徳島に入り「阿波の麦打ち唄」になりました。
藍の産地でもあった吉野川流域では、この唄を唄いながら藍葉を唐竿で叩いていたともいわれています。
現在ではこうした作業もなくなり、花柳界のお座敷唄となっているようです。
三味線の音色がなんとも哀愁があります。
「阿波の麦打ち唄」の歌詞
阿波の藍ならよ ヨホホーヤ 昔を今に
染まる色香は 変りゃせぬ
ヨホホーヤ トヨエ サー ウットケ ウットケ
鳥もハラハラヨ ヨホホーヤ
夜もほのぼのと 鐘がなります寺々に
ヨホホーヤ トヨエ サー ウットケ ウットケ
十八招けば 石でも粉になる
お庭にカラツは いけてない
ドシドシ もちゃげて 打たシャンセ